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執筆者の写真tonojazz tonojazz

渡辺貞夫カルテット2023

これが30年以来の貞夫さんに会える日となった。


その音は艶やかで伸びがあり、まさに歌そのものであり何よりあの時に聞いたみずみずしい


アルトサックスの音に変わりはなかった。


ただご自身が先頃熱中症で倒れられたという事でこの公演までの何日間は梅干しと白がゆだ


けですごされたという事。


演奏に支障があったら申し訳ないと観客に謝って見えたそんな気遣いが終始見受けられると


ころも昔のままである。


実に誠実で謙虚、そして観客やミュージシャンに対しての気遣いが常にある。


そんなご本人の思いもあってか、ソロの節々に思うように吹けない時に出る「あぁっ」とい


う小さな叫び。


リードの関係もあってか音がひっくり返ってしまう場面もあり、苦笑いをされているシーンも。


おそらくご本人の体調が思わしくないままの演奏できっと、不本意なことも多かったと思わ


れる今回のステージは観客にとって全く気にならないほど、楽しくスリリングであっという


間の2時間だった。


MCも少なく曲の紹介くらいしか話されないので、15〜6曲はあったかと思われる。


とても不調だったなんて思えないほどのエネルギー。


どんどんと進行して行き、それに引きこまれてゆく観客の笑顔。


気づけば自分も終始笑顔だった。


そしてゆっくりのバラードで聞かせる場面では涙が出る。


今回の編成メンバーの安定した、そして強い信頼関係で結ばれている音の構築度合いが緻密


で一時も目を離せない。


曲はブラジリアンやオリジナル、スタンダードを織り込んだまさに絶妙のバランスの取れた


貞夫さんご本人の選曲。


ステージ後にスタッフにセットリストを見たい旨伝えたところ、リハーサルで予定していた


ものと実際の曲が違っていたということで、希望が叶わず残念。


今回のライブを機に改めて渡辺貞夫を正面から聴いてみようと思い立ち、そのうち調べてい


ると生い立ちやら人生のストーリーが見えてきた。進駐軍の音楽を肌で感じて演奏してきた


最後の世代。


戦後からの日本のジャズ音楽の現在に至るまでを全て生き抜き常にリードしてきた人。


苦労の連続だった留学前の生活やその後の決断など、知れば知るほど貞夫さんの音楽がより


一層語りかけてくるように思える。


小さな頃空襲で自宅が焼けても、手には唯一父親に買ってもらったハーモニカを握りしめ、


それを吹きながらトボトボと歩いていた記憶が鮮明にあるという話は、まさに原点だったの


ではないかと思った。


どんな時にも、唄がそばにある人。


それはブラジル音楽に傾倒していった理由にもあるらしい。


ライブの時も他の楽器のメンバーは全員メロディーを口ずさみながら演奏する曲もあった。


そして貞夫さん本人の楽器が奏でるメロディーはまさに唄だった。


そして、一番印象に残ったのは、コーラスのだいぶ手前でソロのフレーズが終わり、そのま


まラストコードがやって来るまで待ち、ほんの1〜2音吹いて自分のソロを終えるというス


タイル。


本当に歌いたいフレーズしか歌わないんだという、そんな意思が垣間見えた。


驚いた。


それは意図して行っていることではない、ごく当たり前に、それが自然で全てなのだという


事を実証していた。


そんなふうに音楽を愛して音楽に生きて音楽を表現している姿にただ感動した。



本当に遅ればせながら私は貞夫さんの大ファンになったのである。



これからもずっと。













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